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【インタビュー】イシダマイさん/個展「 ねこのまさお はじめてのおひっこし 」
カテゴリー:写真展<店長・早苗久美子> 2025-10-10更新
現在ナダール東京にて個展「 ねこのまさお はじめてのおひっこし 」を開催中のイシダマイさんに作品や展示についてのお話をお伺いしました。
■今回の作品を展示しようと思ったきっかけについて教えてください。
この作品は、私が初めて作った作品です。
元々は社会人になってから通った京都芸術大学(旧:京都造形芸術大学)写真コースにあった「写真絵本」という課題でした。絵本は大人向けの本に比べると、普遍的な内容をシンプルかつ明快に伝えます。子どもは嘘を見抜く、感想が率直。そんな子どもたちに読んでもらえるような絵本を作ってくださいというお題でした。
この作品を作った頃は、私とまさおの引越し及び同棲、当時の私の勤めていた会社の退職など、いろいろなライフイベントが重なっていました。新しい環境の飛び込む不安や勇気は、誰しも何歳になっても起こりうることです。この作品はある家族のある1日の出来事に過ぎませんが、生命は死ぬために生まれたのではなくて生きる生かされるために有るのだという私の世界の見方を伝えたくて今回の展示を開催しました。
なお、個展では動画も展示しています。京都芸術大学写真コースの「デジタル・プレゼンテーション」というスクーリングで制作しました。己の日常をテーマにしました。生前の動くまさおがおさめされています。ローアングルな作風は映画監督の小津安二郎さんの影響です。プライベートな内容がローアングルで撮影されると客観的視点で描かれるとようになるだろうと思って制作しました。
■ 愛猫まさおちゃんが亡くなって、作品と向き合っていく中でご自身の気持ちの変化などはありましたか?
撮った写真を振り返ることの大切さを痛感しました。そして、遺された写真は私のこれからの人生を励ましてくれるものなのだと感じるようになりました。
写真を撮る行為は、現在を認識するためでもありますが、未来の自分の背中を押す作用もあると改めて思いました。
■ 展示構成を検討するにあたり気をつけたことや意識したことはありますか?
子ども世代の方が見てくださるということを想定して準備しました。まさおが亡くなったことへのレクイエムというよりも、まさおの命のきらめきを全面に出したいと考えました。額装で写真を閉じ込めると遺影のような過去感が出てしまう気がしたので、木製パネルで展示することにしました。子どもが自分で作ったような手馴染み感がある素朴なパネルを作りたいと思い、遺影感が出てしまう水張りテープは使わず、カラフルなアクリル絵の具とジェットをパネルの側面に塗りました。不器用なパネルですが、今回の展示では自力で作ることに意味があると判断しました。
メキシコでは死は生の一部と捉えられ、悲しみではなく明るく祝う特徴があるそうです。喪失の悲しみは今もありますが、メキシコの明るい弔いに思いを馳せ、明るい展示にしました。キャプションは子どもが読んだ場合を想定し、フォントは大きなひらがなにしました。
■ 会場で販売する写真集などの売上の一部を、猫の腎臓病治療薬の開発に取り組む「一般社団法人AIM医学研究所」様に寄付されるとのことですが、その想いをお聞かせください。
AIMとは、体内の老廃物を除去するために重要な役割を果たすタンパク質で、猫に多く見られる腎臓病の治療薬として注目されています。
「後数年でAIMができて、腎臓病でも元気に生けていけるようになるかもしれないから、まさお、頑張ろうね!」とまさおに声をかけて慢性腎不全の介護をしました。まさおの命はAIMのリリースまで持ち堪えることができませんでしたが、介護で悲観的な気持ちになりそうになった時に、AIMという言葉が私を励ましてくれました。感謝を込めて、そして今生きている猫ちゃんたちの未来のために寄付をします。
今回の個展のメインビジュアルや販売する写真絵本とポストカードには、アーティスト/小野美幸さんにイラストを添えて描いていただきました。小野さんは以前からの友人で、まさおが亡くなった日に私の自宅に来てくれて、火葬の前まで付き合ってくれました。私の作品に小野さんがイラストを入れて展示をすることで、まさおの精霊流しになればいいなと思っています。
■ この作品を、特に見てもらいたい人はいますか?
新しい環境の飛び込む不安を感じる全ての人に見ていただきたいです。
亡くなったまさおは遠いどこかにお引越しをしたのだろうと思っています。私のこれからの人生も、不安を期待を抱えながら、気持ちのお引越しが出来れば良いなと願っています。
■ その他に伝えたことがありましたらお願いします。
このインタビューを読んでくださりありがとうございます。
まさおの存在はとある誰かの愛猫にすぎませんが、まさおが亡くなったこと=今まで生きていなかったことになるとは思っていません。亡くなった命への愛の思い出を共にして未来を生きることは、次世代への命の継承につながると信じています。
ぜひご高覧ください。
■ ありがとうございました。イシダマイさんの個展は10月19日(日)まで開催中です。イシダマイさんも、会期中の金・土・日に在廊される予定です。ぜひお越しください。