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インタビュー:岩本美和子さん/個展「Being | 午後4時の風」について

カテゴリー: 2021-04-29更新

9月15日(水)より個展「Being | 午後4時の風」を開催する岩本美和子さんにインタビューしました。

 

■今回の展示のきっかけとなった「STAY HOME」の時は、普段の生活とどのように違い、どう感じていましたか?

>ちょうど1年前ですね。

私の場合は、なるべく「普段通りに」過ごしていました。

本当に平常心だったかというとそうではなくて、きっと先が見えない不安を抱いていたからこそ「平気なふり」だったんだと思います。

感情の表現て人それぞれだと思うんですけど、私の場合はそれを嘆いたり言葉にすると、どうにも収拾がつかないので、敢えて普通にしていました。

■とても冷静に不安な自分に対応出来るのですね。それは岩本さんが写真を撮る姿勢でもあるように思います。ご自身ではどう思われますか?

>内心はとても動揺しているんですよ。そうすると表情も乏しくなるし、言葉数も少なくなる。

人って不安になると余計なことを考えるじゃないですか?ぐるぐると思考が廻って悪い方向に考えて悪循環。

写真を撮るのは「思考から解放されたい」為でもあるんです。ファインダーを通して見ている時は無心ですよね。思考から自由になるための手段として写真を撮り続けているんだと思います。

■展示のステートメントの中にある「等身大の自分」、「写真の中で微笑む遠い日の母」、「成長した娘たちの表情」、「金魚」には、何か繋がりがありますか?

>自宅に居ても鏡の中の自分と丁寧に向き合い、いつもより大振りで揺れるピアスをつけることで女であることを意識したり。

金魚はステイホームになってからネットショップで購入したものです。

娘のペディキュアの赤い色、水中の中の赤い金魚、
毎日の中に、規律を求めたり、変化をもたらしたり、無意識のうちに、心の平静を得るため「何か」を探していたような感じです。

止まることを恐れていたのかもしれません。

母の写真は、ステイホーム期間中に部屋の片付けをしていたときに見つけたものです。

母は自分にとってはあまり居心地の良い存在ではなかったのだけど、四年前に亡くなったという事もあり、写真の中の彼女の笑顔を見た時、不思議と優しい気持ちになれたのです。

自粛中、休校になった娘たちの笑い声が聞こえてくると、とても安心感がありました。

母親になる不安があった時期もありましたが、何もない中でも、娘たちの活き活きした姿は私に幸福を与えました。

■なるほど、「等身大の自分」と「成長した娘たちの表情」が現在、「写真の中で微笑む遠い日の母」は過去だとすると、自由に泳ぎ回る「金魚」は希望的未来を感じます。部屋の片付けのように、不安な気持ちときちんと向き合い、今の気持ちを確認して、安らぎというか安心を得たと言うことですか?

>自由に泳ぐ金魚は希望でもあるけど、

例えば「静寂」を求めても、本当に無音であったり、世界が止まってしまうのは、きっと恐怖ですよね。

それを緩和してくれるのが、ゆらぎだったり浮遊だったり、形なく絶えず動いているものだと思います。

金魚の世界は非日常ですよね。違う生態だし生物だし、現実から離れたところにトリップさせてくれる生き物なんだと思います。

そして過去や未来への概念がないから常に今(being)。そんな存在に惹かれたのかもしれません。

●今回の展示で一番見て欲しい点は何ですか?

>改めて今回の作品を見返すと「空気感」なんだと思います。

全て自宅の部屋で撮ったので、光と影の「影」の部分が魅力なんだと。

時間帯だったり、光の差し具合で、変化する。

気怠くて心地よい空気感がそこにあったと思います。

■光(希望・安心)と影(不安)が、岩本さんにとって、いい感じで混ざる時間。つまり、午後4時。それが、今回の展覧会名である「Being 午後4時の風」なのですね。

>光と影が混ざるいい時間、とても素敵な表現ですね。午後4時は本当にそんな時間なんだと思います。

私は影=不安 だけではなくて、
今回の「巣籠もり生活」に対して居心地良さも感じていました。

コクーニング(cocooning)なんて言葉がありますけど、正にあれに似ているなって思いました。

今はみんなの生活が不自由になってしまったんですもの、もしかしたらこれまでが急ぎすぎてたのかもしれない、だったら何にもしない引きこもり生活で好きなことだけしよう、とさえ思いました。

私は不安だけでなく、この昼も夜も堺が曖昧な生活を、割と楽しんでもいたんです。

また作り手としての願望ですが、作品を見ると同時に、見る人に何らかを体感をしてほしいのです。

これは私個人の物語ですが、それに触れて見る人自身の記憶や、経験に何らかの影響を与える。

写真自体が印象に残ることだけじゃなくて、その人の大事なものだったり、忘れていたことを思い出すようなそんな体験です。

■岩本さんの物語を読み取った人は、きっと「希望」をもらうと思います。

>ありがとうございます。それは嬉しいです。

■最後に何か伝えたいことはありますか?

>今作の制作はちょうど1年前のステイホーム期間でした。奇しくも世の中は今、3度目の自粛を求められています。
見ている景色はそれぞれ違うだろうけど、目に見えない「一体感」を感じた時でもありました。
作品についてはたくさんお話させていただいたので、好きな言葉を。
・・・・・・・・
変わることに ワクワクする
変わることに 不安を覚える
変わらないことに 安堵する
変われないことに イライラする

自粛中のラジオからこんな言葉が聞こえた。「面白いから笑うんじゃないんですよ。笑うから面白いんです。」
同じ風景でも、見る人の心で違う景色となる。写真は心の鏡。

■ありがとうございました。岩本さんの個展はいよいよ5月19日よりナダール で開催です。ぜひお越しください。

 

展覧会名:Being | 午後4時の風
会期:2021年9月15日(水)〜26日(日) 12:00-19:00 最終日は-16:00

 

 

 

岩本美和子/略歴】

東京都在住。Rochester Institute of Technology Fine Art Photography 修了。
DNP住空間マテリアル分野デザイナー職、制作会社を経てフリーランス フォトグラファー へ。
作家としては、日常に光る美しい瞬間を捉えることをテーマに、多様な被写体を介して内省的
な世界観を表現するほか、「写真と詩」を組み合わせた創作も行う。

Exhibitions
2019.05 光と瞬 vol.46 気鋭の写真表現者たち~RECTO VERSO GALLERY
2019.04 二人展「STILL ALIVE」ピクトリコアートギャラリー
2014.02 二人展「Untitled mole」 Yellow Unicorn国立
Awards
2020 御苗場 vol.27 ジュリア・ダーキン ノミネート
2020 Honorable Mention Fine Art-Portrait Professional IPA
2020 PX3 Nature/Flowers-Professional 銅賞
2017 セントラルフォトコンテスト入選

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